KIM&CHANG
IP Newsletter/ May 2019
デザイン権者が侵害製品製造者と取引先に警告状を発送した行為が 不法行為に該当すると判断した事例
弁護士 金元、弁理士 許湧
特許法院は、原告が公信力のある機関からのデザイン権侵害の有無の確認もせず、侵害製品製造者である被告とホームショッピング販売業者である被告の取引先などを相手取り、被告が原告の本件登録デザイン権を侵害したと断定して被告の製品の製造、販売を差止める内容の警告状を発送し、実施されていたホームショッピング放送がこれにより中断された事実関係などが認められた事案で、このような原告の行為は不法行為を構成すると判断した(特許法院2018.10.26.言渡し20172424)。
特許法院の判断
1. 事実関係
(1)原告は、円型真空容器の生産及びホームショッピング等を通した販売の業に従事し、2件のデザイン権を保有していた。201411月、円型真空容器の生産及びホームショッピング等を通した販売の業に従事する被告に「被告製品を生産、販売する行為及び被告の取引先で被告製品を広告、販売する行為は原告のデザイン権を侵害する行為である。被告製品の生産、販売、広告など、一切の行為を禁止することを要求する。これに応じない場合、民・刑事上の全ての措置を取る用意がある」という内容の内容証明通告書を発送し、被告が生産した製品を販売するホームショッピングなどの業に従事する被告の複数の取引先にも類似の趣旨の内容証明通告書を発送した。これに対し、被告の取引先のうちの一部は原告と被告間の紛争終了時まで被告製品の販売を中断する措置を取ったり、被告との物品供給契約を解約する措置を取った。それ以降も原告は被告に回目の内容証明通告書を発送し、他の被告の取引先にも内容証明通告書を発送した。
(2)原告は被告の取引先に被告製品はデザイン権を侵害した製品という内容のショートメッセージを送ったり、直接訪問して内容証明通告書を見せたりもした。
(3)被告は20155月、原告を相手取り被告製品が原告の2件中、1件のデザイン権の権利範囲に属さないという消極的権利範囲確認審判を請求し、20163月認容審決が確定した。
(4)被告は20155月、原告を相手取り2件のデザイン権に対する無効審判を請求し、20166月、1件は有効に、他の1件は無効が確定した。
(5)原告は20156月、被告を相手取りデザイン権の侵害及び不正競争防止法に基づいた差止め請求及び損害賠償請求の訴(本訴)を請求し、被告は反訴として原告の警告状発送行為は不法行為を構成するという理由で損害賠償請求を提起した。
(6)特許法院は原告の本訴請求を棄却し、被告の反訴請求を一部認容する判決を言渡した。
2. 反訴判決の内容
本件の内容証明通告書のような警告状を発送する行為は司法的救済手続きを先取または、迂回する目的から成り立つ自力救済の性格を持つもので、法的制度を通した紛争解決という法治主義の理念を損なう憂慮が大きく、登録デザイン権者がこのような警告状を発送する時には非常に慎重に検討する必要がある。
また、デザイン権などの侵害疑いの製品の場合、その生産者の他にその生産者の取引先などに対してまで侵害疑い製品の販売、広告などに対する警告などをする時は、それにより生産者の営業上の信用を損なう憂慮が大きいため、生産者に対して警告をする時よりも、侵害有無の判断に細心の注意をより一層、払う必要がある。
原告が被告に対し被告製品の生産、販売を差止める仮処分を求めるなど、司法的救済手続きを取らず、直ちに被告及び被告の取引先などに、1回目及び2回目の内容証明通告書などを発送したり告知する一連の行為は正当な権利行使から外れ、故意または過失により違法に被告の営業活動を妨害したものとして民法第750条の不法行為に該当すると見るのが妥当で、このような原告の不法行為により被告が売上額の減少及び業務上の信用毀損などの損害を被ったことが認められるため、原告は被告にこの損害を賠償する責任がある。
コメント
特許権やデザイン権侵害のような知識財産権紛争の初期段階に警告状を送ることは珍しくはない。警告状の発送後、侵害行為が中断される事もあり、交渉が進み訴訟にまで至らず早期に解決されることもあり、相手側の故意侵害を判断することにおいて、故意認定の基礎になり得る。
本件では、侵害製品を製造する相手側だけでなく、その取引先に対しても警告状を発送したという点とその他の様々な事実関係が加わった事案で、特許法院が不法行為という判断を下した件であるが、下級審判決で具体的な事実関係の下での判決であるため、警告状発送が不法行為に該当する場合は今後、法院の判決例が蓄積されることにより、もう少し明らかになると思われる。実務的には、警告状の発送が必要な場合は事前の検討事項、対象選定、警告状の文面や発送する方法などについて、法律の専門家と相談することが望ましいものと思われる。
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