KIM&CHANG
IP Newsletter/ May 2019
均等範囲の判断要素のうち、「課題の解決原理の同一性」をどのように把握するか
弁理士 徐源大
原告は2015414日、特許審判院に被告(特許権者)を相手取り、「確認対象発明は登録特許第515442号(以下、「本件特許発明」)の権利範囲に属さない」という趣旨で消極的権利範囲審判を請求し、特許審判院は20151022日に、確認対象発明は本件特許発明の請求項1(以下、「本件第1項発明」)と均等関係にあるので本件第1項発明の権利範囲に属するという理由で審判請求を棄却する審決をした。
原告は20151120日、特許法院に棄却審決に対する審決取消の訴え(原審)を提起し、特許法院は2017120日に確認対象発明が本件第1項発明と均等関係にあることを認めて棄却する判決をした。原告は特許法院の判決を不服とし、大法院に上告した。(大法院2019.1.31.言渡し2017424判決)
事実関係
(1)原審では本件第1項発明の構成要素6[ガイドケース(60)]と構成要素7[格子型の切断刃(80)]とが確認対象発明の「引入作動ユニット(170)、回動プッシャ(165)、棒状のストッパー(164)」と「格子型の切断刃(180)、格子型ボックス(185)」とは同一でないという認定下において、均等関係の判断における課題の解決原理の同一性の該否が主要な争点になった。
[本件第1項発明の「構成要素6」と確認対象発明の「構成要素6の対応構成」を示した図面]
(本件特許発明) (確認対象発明)
[本件第1項発明の「構成要素7」と確認対象発明の「構成要素7の対応構成」を示した図面]
(本件特許発明) (確認対象発明)
大法院の判断
1.法理
確認対象発明と特許発明の「課題の解決原理が同一か」を判断する時には特許請求範囲に記載された構成の一部を形式的に抽出するのではなく、明細書に書かれた発明の詳細な説明の記載と出願当時の公知技術などを参酌して先行技術と比べてみる時、特許発明に特有な解決手段が基礎とする技術思想の核心が何であるかを実質的に探求して判断しなければならない(大法院2014.7.24.言渡し20121132判決参照)。特許法が保護しようとする特許発明の実質的価値は先行技術で解決されなかった技術課題を特許発明が解決して技術発展に寄与したところにあるので、確認対象発明の変更された構成要素が特許発明の対応する構成要素と均等であるかを判断する時も特許発明特有の課題の解決原理を考慮する。そして特許発明の課題の解決原理を把握する時、発明の詳細な説明の記載だけでなく出願当時の公知技術などまでを参酌するのは、先行技術全体との関係において特許発明が技術発展に寄与した程度により特許発明の実質的価値を客観的に把握して、それに適した保護をするためである。
従って、このような先行技術を参酌して特許発明が技術発展に寄与した程度によって特許発明の課題の解決原理をどの程度、広くまたは狭く把握するのかを決めなければならない。ただし、発明の詳細な説明に記載されていない公知技術を根拠として、発明の詳細な説明から把握される技術思想の核心を除いたまま、他の技術思想を技術思想の核心として置き換えてはならない。
2.課題の解決の同一性に対する判断
本件特許発明の詳細な説明には「従来は包装容器の各収納空間の間にある間隔だけ、切断されたそれぞれの積層海苔の間を広げておく構造を提示することができなかったが、積層海苔を押す加圧切板が格子型切断の刃の外側傾斜面に沿って互いに間が広がるように誘導することによって収納工程までを自動化することができる」旨が記載されている。このような発明の詳細な説明の記載を通じて把握される本件第1項発明に特有な解決手段が基礎とする技術思想の核心は「切断されたそれぞれの積層海苔が下降してガイドケースの下部に固定配置されている格子型部品の外側傾斜面に沿って互いに間が広くなるように誘導」するところにある。
原審判示の先出願原告案は本件特許発明の出願当時に公知となっていた技術ではなく、その他に上記のような技術思想の核心が本件特許発明の出願当時に公知であったと認定するほどの事情は認められない。そして発明の詳細な説明に構成要素6(ガイドケース)が加圧切板の昇降作動を安定的に案内すると記載されているが、このような機能は加圧切板の昇降作動を安定的に案内することを通して本件第1項発明の技術思想の核心を実現するのに寄与するという程度であって、本件第1項発明に特有な解決手段に基づく技術思想の核心と把握することはできない。
確認対象発明も傾斜面を具備した「格子型ボックス」の構成によって「切断されたそれぞれの積層海苔が下降して格子型ボックスの外側傾斜面に沿って互いに間が広がるように誘導」している。従って、確認対象発明は上記のような各構成の差にもかかわらず、技術思想の核心において本件第1項発明と同じであるので課題の解決原理は同一である。
コメント
均等範囲の認定要件と関連して、現在の韓国大法院は確認対象発明(侵害品)に特許発明の特許範囲に記載された構成のうち変更された部分がある場合でも、特許発明と課題の解決原理が同一で、特許発明と実質的に同じ作用効果を示し、そのように変更することが通常の技術者であれば誰でも簡単に考え出すことができる程度であれば、特別な事情がない限り、確認対象発明は特許発明の特許請求範囲に記載された構成と均等関係にあるという法理を判示している
特に、均等範囲の認定要件のうち「課題の解決原理の同一性」に対する判断方法については、大法院が2009年に大法院判決(大法院2009625日言渡し20073806)を示して以降、実務で扱われながら、判例を通してその意味と判断方法が次第に具体化されてきた。
本判決は、特許発明の課題の解決原理を把握するのにおいて、発明の詳細な説明の記載だけでなく出願当時の公知技術までを参酌することで、先行技術全体との関係において特許発明が技術の発展に寄与した程度に応じて特許発明の課題の解決原理を広くも狭くも把握することができるという判断基準を具体化している。このことは、たとえば公知技術との関係で特許発明が大きく進歩した技術であればその均等範囲も広く認められるという判断基準を提示したという点で意味があると言えよう。
一方、本判決の判断基準において、第三者が発明の詳細な説明の記載を信頼して、発明の詳細な説明から把握できる技術思想の核心を利用していない場合に、もし置き換えられた技術思想の核心に基づき課題の解決原理が同じであると判断されるようになれば、第三者に予測できない損害を及ぼすおそれがあることが憂慮される。これに鑑みて、本判決は、「発明の詳細な説明に記載されていない公知技術」を根拠として、発明の詳細な説明から把握される技術思想の核心を除きながら他の技術思想を技術思想の核心とするよう置き換えることを禁じているという点でも意味がある。
今後も、韓国において、均等範囲の認定要件に対する判断基準は、研究を繰り返しながら次第に具体化され固まっていくものと思われる。権利範囲の属否判断(侵害の成否判断)の際には、均等関係に対する判断についても、判例に照らし慎重に判断する必要があるであろう。
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