KIM&CHANG
Newsletter | November 2016, Issue 3
建設・不動産紛争
ターンキー工事において不測の実験結果を理由に工期延長が認められた仲裁判定
ターンキー工事において、施工者の責めに帰すべからざる事由により工期の延長が必要な場合が頻繁に発生しているにもかかわらず、発注者はターンキー工事であることを掲げてこれを拒否することがほとんどです。実務上、これによって紛争が発生した場合、施工者が救済されることは多くありませんが、施工者が救済された仲裁判定事例がありましたので、ご紹介します。
S市はターンキー方式で「○○雨水貯留排水施設など防災施設拡充工事」に対する入札(「本件入札」)を公告しました。本件入札案内書では「入札者は雨水貯留排水施設の流入部、本線トンネル区間、流出部の円滑な流れを分析するための数値モデリングを実行し、これを基本設計報告書に収録しなければならず、実施設計適格者に選ばれた者は、実施設計期間中に水利模型実験を実施して、流れなど施設物の安定性を検証しなければならない」と規定していました。依頼人のコンソーシアムは数値モデリングにより基本設計を行って、本件入札に参加し、実施設計適格者に選定されました。
ところが、同コンソーシアムは、実施設計のための水利模型実験で数値モデリングとは異なる実験結果を得ることになり、このため工期の遅延が避けられなくなりました。同コンソーシアムはS市に工期延長を要請しましたが、S市は本件はターンキー方式の契約であるため、水利模型実験の不測の結果による工期延長は認められないという立場を取りました。同コンソーシアムとS市は仲裁を通じて本件工期延長紛争を解決することに仲裁合意をしました。
弊事務所は、本件仲裁において依頼人のコンソーシアムが遂行した数値モデリング及び水利模型実験の適切性、水利模型実験の結果が予想外にも数値モデリングと異なる結果になったのは依頼人のコンソーシアムの責任ではないという点、本件工事がターンキー工事であるとしても、施工者の責めに帰すべからざる事由により工期の延長が必要な場合には、これを容認しなければならない点などを様々な面から主張し、14ヶ月の工期延長が許容されるべきであることをアピールしました。仲裁判定部は当方の多くの主張を受け入れ、工期を12ヶ月延長するという趣旨の判定をしました。
特に、本件仲裁判定は「たとえ設計施工一括契約であっても、正当な事情によって設計変更が必要となり、これによって必然的に設計期間や施工期間の延長が必要となった場合、工事期間の延長すら許容されないとみることはできず」、「実施設計期間の延長や本工事期間の延長が発注機関の責任に基づくものであったり、その他施工者に責任のない設計変更等の事由に基づくものであるならば、相当な範囲内の施工者の工事期間延長要求は正当なものとして許容されなければならない」と判示しています。
本件は、ターンキー工事であっても、正当な事由がある場合は施工者の工事期間の延長要求が許容されるという結果を導き出したという点で、重要な先例になるとみられます。
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