KIM&CHANG
Newsletter | November 2016, Issue 3
関税及び国際通商
Brexitが韓国の貿易に及ぼす影響
イギリスは2016623日、国民投票によりEU(欧州連合)から脱退(いわゆる「Brexit(ブレグジット)」)することを決定しました。EUは、2009年に発効したリスボン条約(Treaty of Lisbon)により維持されている共同体で、Brexitはイギリスが同条約から脱退することを意味します。
イギリスが最終的にEUから脱退するまでは2年以上の時間がかかるものと予想され、その間にPost-Brexit EUとイギリスがどのように変化するか不確実性が続くものと予測されるなか、EU経済の2割以上を占めてきたイギリスの脱退は、既存の法的秩序や市場状況に重大な影響を及ぼすものとみられます。特に、韓EU自由貿易協定(「韓EUFTA」)の地位をめぐって大きな変化をもたらすことになります。
イギリスがリスボン条約から実際に脱退する時点は、リスボン条約第50条に基づき、イギリスがEUに対して脱退を通知した日から原則として2年以内に終了することになっており、少なくとも2年後になる見通しです。脱退が効力を発すれば、リスボン条約が適用される地域に限って適用されるものと規定されている韓EUFTAの領土的適用範囲条項により、イギリスはそれ以上韓EUFTAの適用を受けなくなるものとみられます。もちろん、その時点までは韓EUFTAが韓国とイギリス間の交易に適用されます。
2015年基準で韓国の輸出全体にEUが占める割合は9.1%、そのうちイギリスが占める割合は1.4%水準で、Brexitが韓国の通商経済に及ぼす影響は制限的であるものとみられますが、後述するように、Brexitが今後実現する場合、イギリスはそれ以上韓EUFTAの適用を受けなくなるので、通商関係に様々な変化が生じる可能性があります。
また、2015年現在韓国の輸出全体において、Brexitの具体的な方向と影響に対する不確実性が投資活動の冷込み、景気低迷など国際経済に及ぼすマイナス要素として働き、これにより韓国経済も直接・間接の影響を受けるものと予想されています。
イギリスがEUから脱退した場合、イギリス製の物品はそれ以上韓EUFTAによる特恵関税の優遇を受けられなくなるため、それらの物品が輸入される場合、韓国の輸入業者は韓EUFTAによる特恵関税率の代わりに実行関税率により関税を納めなければなりません。ただし、イギリスのEU脱退の効力が発生する時期までは、依然として韓EUFTAによる特恵関税の優遇を受けることが可能とみられます。
韓国がイギリスから輸入する物品は主に原油、自動車、医療用品、酒類等で、イギリスが韓国から輸入する物品は自動車、機械、電子機器等がほとんどです。特に原油、自動車、酒類等の物品は、現在ほとんどが韓EUFTAにより特恵関税率の適用を受けて輸入されており、イギリスと韓国間の別途FTAが締結されることなくイギリスがEUから脱退し、韓EUFTAの規律が受けられなくなるならば、それらの物品に対し関税が課され、その分だけ市場での価格競争力を喪失するおそれがあります。ただし、Brexitによりポンド安が続く場合、ウォン建ての輸入価格は相対的に低くなるので、これによる輸入増大効果はあるかもしれません。
EUFTAによる特恵関税の優遇を受けて輸入をする域内企業では、韓国とイギリスとの間で別途のFTAが締結されない限り、イギリスがEUから脱退した後は特恵関税の優遇を享受できなくなるので、このようなFTA効力の変化に備えるために事前に価格を交渉したり、将来の急激な需給・価格の変動、輸出・輸入環境の変化など不確実な状況に備えられるよう、各種権利・義務関係などを契約書に適切に反映することを考慮することができます。また、韓EUFTAの特恵関税が適用される原材料を輸入して生産に用いる場合、Brexitのシナリオに備えて多様な購入先を確保しておくなど、現在の供給網(supply chain)を点検する必要もあります。
EUFTAによる特恵関税の優遇を受ける物品を生産または輸出する企業の場合も、イギリスがEUから脱退した後はFTA特恵関税の優遇を受けられなくなり、海外市場における価格競争力の弱化等が予想されますので、事前に備える必要があります。
イギリスがEUから脱退しても、イギリスと韓国との間でFTAが新たに締結されるならば、特恵関税の優遇が受けられる道が開かれます。ただし、韓英両国は交渉を完全に新たに始めることになるので、韓EUFTA上の商品譲与スケジュールと同じように交渉がなされない可能性を排除することができず、原産地規定も韓EUFTAと完全に同様に規定されない可能性があります。
したがって、イギリスのEU脱退が確実になり、韓国とイギリスがFTA交渉を開始することになった場合、韓EUFTAによる特恵関税の優遇を受ける物品を扱う企業では、生産、輸出・輸入物品に対する関税撤廃率や原産地規定が新たに締結されるFTAに適切に反映されるかをモニタリングし、両政府に対して適切な提言を行うことも考慮することができます。
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