特許法院は、特許発明の医薬用途に関して相反する内容を開示している複数の先行文献が存在する場合、これらの証拠判断は通常の技術者の観点から一般的に受け入れることができる科学的根拠があるかどうかを見て、それらを比較して判断すべきであると判示した(特許法院2013.10.10言渡し2012ホ9839,10563,10679,10631,10754判決(併合))。 |
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事実関係 |
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原告はプレガバリンの鎮痛効果に関する被告の医薬用途の特許発明に対し、ⅰ)GABAレベルを高める物質は鎮痛効果があり、プレガバリンはGABAレベルを高める物質である点(GABAレベルに関する主張)、ⅱ)①プレガバリンはCa2+チャネル遮断剤で、Ca2+チャネル遮断剤は鎮痛効果があるということは技術常識であるという点、②プレガバリンとガバペンチンは両方共、α2δサブユニットに結合して薬理活性を発揮し、ガバペンチンの鎮痛効果は公知となっているという点(α2δサブユニットに関する主張)から、プレガバリンの鎮痛効果は簡単に導き出されるため、被告の特許は進歩性が否定され、登録は無効であると主張した。 |
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法院の判断 |
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ⅰ) GABAレベルに関連して
原告が提示した先行文献の請求範囲にプレガバリンがGAD(L-glutamic acid decarboxylase)活性化を通じて脳のGABA(gamma-aminobutyric acid)レベルを増加させ、痙攣を治療するという記載があるが、同先行文献で実際の実験を通して確認したところは、プレガバリンラセミ体は抗痙攣治療効果は優れているが(生体実験結果)、予想とは異なってGAD活性化能力は殆どない(試験管実験結果)ということであるから、プレガバリンラセミ体の抗痙攣効果はGAD活性化を通して現れると見られない。また、同先行文献の優先日前に公表された複数の論文(そのうちの一つは同先行文献の発明者が書いた論文)では、同先行文献に開示された実験結果を分析しながら、プレガバリンラセミ体の抗痙攣効果がGAD活性化によるものではないと見られると記載している。従って、通常の技術者としては同先行文献の請求範囲に記載されたプレガバリンが脳のGABAレベルを上昇させるという不確かな内容をそのまま受け入れ、これに基づいてGABAレベルの上昇が鎮痛効果をもたらすという追加的な事実と結合させて、プレガバリンの鎮痛効果を導き出すということは容易ではないと判断される。
ⅱ) α2δサブユニットに関連して
①プレガバリンがCa2+チャネル遮断剤に該当するか
原告は、Ca2+チャネル遮断剤が痛みの治療に効果があるということは技術の常識に該当し、プレガバリンがCa2+チャネル遮断剤であるためプレガバリンの鎮痛効果は簡単に導き出されることができると主張しているが、プレガバリンがCa2+チャネル遮断剤という事実が、原告が提示する先行文献から直ちに導き出されるものではない。
②ガバペンチン抗痙攣活性メカニズムから類推可能か
原告は、ガバペンチンとプレガバリンはα2δサブユニットにのみ結合して薬理活性を示すということが分かり、ガバペンチンは抗痙攣及び鎮痛効果があり、プレガバリンも抗痙攣効果があるので、これらの結合によってプレガバリンの鎮痛効果は簡単に導き出されると主張している。しかし、ガバペンチンの抗痙攣活性のメカニズムに関して多様な仮説が存在しており、ガバペンチンの抗痙攣作用がα2δサブユニットの結合により発生するかどうかも明確ではない。さらに、このような原告の主張に背馳する文献や相反する理論が展開されており、通常の技術者がガバペンチンの抗痙攣作用がα2δサブユニットの結合によって発生するという不確かな仮説をそのまま受け入れ、ここにプレガバリンがガバペンチンと同じ抗痙攣効果があるという追加的な事実を結合させてプレガバリンがガバペンチンと同じ鎮痛効果を発揮するという本件特許発明を導き出すのは容易ではないものと判断される。 結局、プレガバリンの痛みの治療用途を導き出すことは難しくないとの原告の主張は全て受け入れることができないため、本件特許発明の進歩性は否定されない。 |
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コメント |
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実験の学問である化学や薬学では新しい用途を発見する過程で相当な技術力と多くの費用がかかるため、通常の技術者としては合理的な成功の可能性(reasonable expectation of success)があるのか、また、予測可能な手段(predictable solution)であるのかという点によって、実験を行うかどうか決めることになる。従って、先行文献に成功に対する合理的な期待が可能であると言った程度の示唆や教示があるかは大変重要である。このような法理は既にアメリカでは確立されている法理で、通常の技術者にとって自明なことであるかどうかを判断することにおいて、自明性を否定する要素として提示されている[Takeda Chem. Indus.、Ltd. v. Alphapharm Pty.、Ltd. (Fed. Cir. 2007)等多数]。
なお、本件と同じように相反する内容を開示している複数の先行文献が存在する場合、これらのうちのいずれか一つから簡単に特許発明に至ることができると判断することは、このような化学や薬学発明の属性を考慮していないことになる。このような点を考慮して本判決では通常の技術者の観点から先行文献の価値や信憑性を橋梁し、原告が主張している先行文献が明確に本件特許発明に導いているのかどうかを進歩性判断の基準としている。すなわち、通常の技術者が先行文献の教示が明確でこれを信頼して、ここから容易に特許発明に至ることができるかどうかを考慮したもので、進歩性判断において一段階進んだ判決と言えよう。
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